メンタリングセッションを成功させる 構造化とアジェンダ設定の勘所
はじめに
メンターシッププログラムを運用されている人材開発担当者の皆様は、「メンタリングセッションがなんとなく雑談で終わってしまう」「何を話していいか分からず沈黙がちになる」「毎回同じような内容で進歩が見られない」といった課題に直面された経験があるかもしれません。これらの課題は、セッションの構造が曖昧であることや、明確なアジェンダ設定がなされていないことに起因することが多くあります。
本記事では、メンタリングセッションの効果を最大化するために不可欠な「構造化」と「アジェンダ設定」に焦点を当て、その重要性、具体的な方法、そしてセッションの質を高めるためのコミュニケーション術について解説します。これらの要素をプログラム設計やメンター・メンティーへのガイダンスに取り入れることで、より実りあるメンタリングの実現を目指します。
メンタリングセッションの構造化が重要な理由
メンタリングセッションを効果的に進めるためには、一定の構造を持たせることが有効です。構造化とは、セッション開始から終了までの流れや各パートでの主な内容を事前に定めることを指します。構造化には以下のようなメリットがあります。
- 目的意識の明確化: セッションの各段階で何を目指すのかが明確になり、ダラダラとした進行を防ぎます。
- 時間管理の効率化: 限られた時間内で重要なトピックに十分な時間を割くことが可能になります。
- 脱線の防止: 本来の目的から大きく外れることを抑制し、議論の焦点を保ちます。
- 進捗の把握: セッションごとに同じ構造を踏むことで、メンティーの成長や課題解決に向けた進捗を把握しやすくなります。
- 安心感の提供: メンター・メンティー双方がセッションの流れを予測できるため、安心して臨むことができます。
典型的なメンタリングセッションの構造としては、以下のような要素を組み合わせることが考えられます。
- チェックイン(開始時): お互いの近況を共有し、リラックスした雰囲気を作る(例: 5-10分)
- 前回の振り返り: 前回のセッションで決定したネクストアクションの進捗や気づきを共有する(例: 10-15分)
- 今回のアジェンダ討議: 事前に共有したアジェンダに基づき、主要なトピックについて深く話し合う(例: 30-40分)
- ネクストアクションの設定: 今回の議論を踏まえ、次回のセッションまでにメンティーが取り組む具体的な行動や目標を設定する(例: 10分)
- チェックアウト(終了時): セッション全体の振り返りや気づきを共有し、次回セッションの予定などを確認する(例: 5分)
もちろん、この構造はあくまで一例であり、メンタリングの期間や目的に応じて柔軟に調整することが重要です。
効果的なアジェンダ設定とそのプロセス
アジェンダ設定は、構造化されたセッションにおいて、具体的に「何を話し合うか」を定めるプロセスです。アジェンダが明確であることは、セッションの生産性を高める上で極めて重要です。
アジェンダ設定のプロセス
- メンティー主導を基本とする: アジェンダは基本的にメンティーが中心となって設定することが望ましいです。これにより、メンティーの主体性を引き出し、彼/彼女が本当に必要としているトピックについて議論できます。
- 事前の共有: セッションの数日前までにメンティーがアジェンダ案を作成し、メンターに共有します。これにより、メンターは事前に内容を把握し、建設的な議論に向けた準備ができます。
- メンターとの調整: メンターは共有されたアジェンダ案を確認し、必要に応じてフィードバックや追加の提案を行います。両者で合意したアジェンダを最終決定します。
- 柔軟性を持たせる: アジェンダはあくまで「叩き台」であり、セッション中の議論の流れや新たな気づきに応じて、柔軟に変更・追加する余地を残しておくことが大切です。
効果的なアジェンダ設定のポイント
- 具体的であること: 「キャリアについて」「課題について」といった抽象的な表現ではなく、「〇〇のスキル習得に必要なステップについて相談したい」「現在直面している△△の課題に対する具体的なアプローチを検討したい」のように、何を達成したいのか、何を知りたいのかを具体的に記述します。
- メンティーの成長に繋がる内容: アジェンダは、メンティーの目標達成や成長に直接的に貢献する内容であるべきです。
- 現実的な量: 限られた時間(例えば60分)で議論できるトピックの数には限りがあります。優先順位をつけ、現実的な量に絞り込みます。
- 事前準備が必要な項目の明記: 特定のデータや資料の準備が必要な場合は、アジェンダにその旨を記載し、メンター・メンティー双方が準備できるようにします。
具体的なアジェンダ項目の例
- 目標達成に向けた中間レビューと課題の特定
- 特定のプロジェクトにおける意思決定プロセスの壁打ち
- 新しい業務知識・スキルに関するインプットと質問
- 社内人脈構築に関する戦略相談
- ワークライフバランスに関する悩みの共有と対策検討
構造化・アジェンダ設定とコミュニケーション術の連携
構造化とアジェンダ設定は、あくまで「器」です。その中で質の高い対話を行うためには、コミュニケーション術が不可欠です。
- アクティブリスニング: アジェンダに沿って話が進む中でも、メンティーの発言の意図を深く理解しようと傾聴する姿勢を保ちます。
- 効果的な問いかけ: アジェンダの各項目について、メンティーの思考を深めたり、新たな視点を提供したりするようなオープンクエスチョンを投げかけます。「なぜそう考えるのですか」「他にどのような選択肢がありそうですか」といった問いかけが有効です。
- フィードバック: アジェンダの議論の中で、メンターは自身の経験に基づいたフィードバックやアドバイスを提供します。フィードバックは具体的、建設的、かつタイムリーであることが重要です。
- 要約と確認: 各アジェンダ項目の議論が一区切りついたところで、メンターが議論のポイントや決定事項を要約し、メンティーに確認します。これにより、認識のズレを防ぎ、合意形成を図ります。
- 心理的安全性の確保: 構造やアジェンダがあるからといって、堅苦しくなりすぎる必要はありません。お互いの意見を自由に言える安心できる雰囲気作りは、質の高いコミュニケーションの土台となります。
構造化とアジェンダ設定をプログラムに導入するための施策
人材開発担当者としては、これらの概念をプログラム全体に浸透させるための施策を講じることが求められます。
- メンター研修でのガイダンス: メンター研修において、効果的なセッション構造の例やアジェンダ設定の重要性、具体的な進め方を明確に伝えます。
- テンプレートやツールの提供: セッション構造やアジェンダ設定のテンプレートを提供したり、アジェンダ管理をサポートするツールを導入したりすることも有効です。
- メンティー向けオリエンテーション: メンティーに対しても、主体的にアジェンダを設定することの重要性や、効果的なアジェンダの作り方についてガイダンスを行います。
- 定期的なフォローアップ: プログラム運営側がメンター・メンティー双方に定期的にセッションの進捗や課題についてヒアリングし、必要に応じてアドバイスやサポートを提供します。セッションの構造やアジェンダ設定に関する悩みがないかを確認します。
まとめ
メンタリングセッションの効果を最大化するためには、やみくもに時間を過ごすのではなく、意図的に構造を持たせ、明確なアジェンダを設定することが極めて有効です。これにより、セッションの目的が明確になり、限られた時間を最大限に活用し、メンティーの具体的な成長に繋がる質の高い対話を実現できます。
人材開発担当者の皆様におかれましては、本記事で述べた構造化とアジェンダ設定の考え方を、ぜひ貴社のメンターシッププログラムの設計や運営、そしてメンター・メンティーへの研修やガイダンスに取り入れていただければ幸いです。これらの実践を通じて、メンタリングプログラム全体の効果向上を図ることができるでしょう。