メンタリング終了時の振り返りと次への接続 コミュニケーションの勘所
はじめに
メンターシッププログラムにおいて、個別のメンタリング関係が終了するタイミングは、単なる区切りではなく、これまでの期間の成果を確かなものとし、今後の成長に繋げるための極めて重要な機会です。この終了時のコミュニケーションは、メンティーの学びの定着、メンター自身の成長実感、そしてプログラム全体の効果測定と改善に大きく寄与します。しかし、どのように終了を迎え、どのようなコミュニケーションを取れば良いかについて、十分に計画されていないケースも少なくありません。
本記事では、メンタリング関係の終了時において、振り返りを促し、学びを定着させ、次のステップへの接続を円滑に行うためのコミュニケーションの勘所について解説します。人材開発担当者の皆様が、より効果的なメンターシッププログラムを運営される一助となれば幸いです。
メンタリング終了の意義とタイミング
メンタリングの終了は、プログラム期間満了によるもの、メンティーの目標達成によるもの、あるいは関係性の変化によるものなど、様々な理由が考えられます。いずれの場合も、終了はこれまでの期間を総括し、今後の展望を描くための自然なプロセスとして捉えることが重要です。
終了のタイミングについては、プログラム開始時に期間や終了基準を明確に共有しておくことが理想的です。予期せぬ終了の場合も、一方的な打ち切りではなく、対話を通じて相互の状況や意向を確認し、理解を得ながら進めるコミュニケーションが求められます。
終了に向けた事前準備の重要性
円滑な終了と実りある振り返りのためには、事前の準備が不可欠です。メンター、メンティー双方にとって、これまでの活動を振り返り、整理する時間を設けることが推奨されます。
具体的には、以下のような準備が考えられます。
- 目標達成度の確認: プログラム開始時に設定した目標や期待に対して、どの程度達成できたか、あるいは変化したかを確認します。
- 活動の振り返り: これまでに行ったセッションの内容、話し合ったテーマ、取り組んだこと、生じた変化などを振り返ります。
- 学びや気づきの整理: メンタリングを通じて得られた具体的な学び、自分自身や仕事に関する新たな気づき、成長を実感できた点などを整理します。
- 継続したいこと、今後の課題の特定: メンタリング期間で終わりではなく、今後も継続していきたい習慣や行動、そして自身が取り組むべき今後の課題を特定します。
これらの準備を各自で行うことで、終了セッションでの対話がより深まり、具体的な振り返りや今後の計画に繋がりやすくなります。
終了セッションでのコミュニケーションのポイント
終了セッションは、これまでの関係性を締めくくり、互いに感謝を伝え、今後のステップに繋げるための重要な機会です。ここでは、特に意識したいコミュニケーションのポイントをいくつか挙げます。
1. 感謝と承認を伝える
メンター、メンティー双方にとって、この期間を通じて築き上げた関係性や互いの貢献に対する感謝の気持ちを伝えることは非常に重要です。メンターはメンティーの成長や努力を具体的に承認し、メンティーはメンターの支援や時間に対する感謝を伝えます。これにより、肯定的な感情と共にメンタリング関係を締めくくることができます。
2. 期間全体の振り返りを促す
単に「どうでしたか」と尋ねるだけでなく、具体的な質問を通じて期間全体の振り返りを促します。
- 「このメンタリング期間で、最も印象に残っている学びは何ですか」
- 「開始時に設定した目標について、今どのように感じていますか」
- 「メンタリングを通じて、ご自身の中でどのような変化や成長がありましたか」
- 「もしもう一度この期間を過ごすとしたら、何を変えてみたいですか」
GROWモデル(Goal, Reality, Options, Will)などを応用し、「この期間のR(Reality - 現状はどうだったか)」、「G(Goal - 当初の目標と今の到達点)」に焦点を当てて振り返ることも有効です。
3. 学びの定着と今後のアクションプランの検討
メンタリングで得た学びが単なる知識で終わらず、実際の行動や習慣として定着するよう促します。
- 「今回のメンタリングで得た学びを、今後どのように活かしていこうと考えていますか」
- 「具体的に、明日からどのような行動を始めてみますか」
- 「その行動を継続するために、何か工夫できることはありますか」
メンティー自身が具体的なアクションプランを描けるよう、メンターは問いかけを通じて支援します。必要であれば、今後の学習リソースや社内外の支援制度に関する情報を提供することも考えられます。
4. 関係性の今後について話し合う
プログラムとしてのメンタリングは終了しますが、メンター・メンティーとして培った信頼関係は貴重な財産です。今後、非公式に相談に乗る可能性があるか、あるいは別の形で関わる可能性があるかなど、互いの意向を確認し、関係性の今後についてオープンに話し合うことで、メンティーは孤立感を感じずに済み、長期的なサポートの可能性が開けます。
5. プログラム運営へのフィードバックを依頼する
メンター・メンティー双方から、プログラム全体に関する率直なフィードバックを収集します。
- 「このメンタリングプログラム全体について、良かった点、改善してほしい点はありますか」
- 「運営担当者に伝えておきたいことはありますか」
このフィードバックは、人材開発担当者がプログラムの効果を測定し、次期以降の運営を改善する上で非常に貴重な情報源となります。フィードバック収集のためのアンケート協力を依頼することも効果的です。
運営担当者によるフォローアップ
メンタリング関係の終了後、人材開発担当者による適切なフォローアップも重要です。
- 終了アンケートの実施: メンター、メンティー双方に、期間中の活動内容、目標達成度、学び、プログラムへの評価に関するアンケートを実施し、定量・定性データを収集します。
- 個別ヒアリング: 必要に応じて、キーパーソンとなるメンターやメンティーに個別ヒアリングを実施し、アンケートでは得られない深い洞察や具体的なエピソードを収集します。
- 成果の共有と表彰: プログラム全体の成果や、メンター・メンティーの具体的な成長事例などを社内で共有することで、メンターシップ文化の醸成と参加者のモチベーション維持に繋げます。優れたメンターや顕著な成長を遂げたメンティーを表彰することも有効です。
- 学びの機会の提供: メンタリングで特定されたメンティーの今後の課題や学習ニーズに基づき、関連する研修プログラムや社内リソースの情報を提供します。
これらのフォローアップを通じて、メンタリング期間で終わらず、継続的な人材育成の一環として位置づけることができます。
まとめ
メンタリング関係の終了は、これまでの活動を振り返り、学びを定着させ、今後の成長に繋げるための重要な機会です。終了時のコミュニケーションを計画的に行い、感謝の伝達、具体的な振り返りの促進、今後のアクションプランの検討、そしてプログラム運営へのフィードバック収集を適切に行うことで、メンティーの自律的な成長を促し、メンターの貢献感を高め、プログラム全体の効果を最大化することが可能です。
人材開発担当者の皆様におかれましても、メンタリングの「終了」というプロセスを単なる「完了」ではなく、次への「接続」と捉え、そのためのコミュニケーション設計に注力されることを推奨いたします。継続的な改善を通じて、貴社のメンターシッププログラムがより実りあるものとなることを願っております。