メンタリングにおける難しい会話への対処法
メンタリングにおける難しい会話への対処法
メンターシッププログラムを運営される中で、メンターやメンティーから「どのようにコミュニケーションを取れば良いか分からない」「デリケートな話題に触れづらい」といった声を聞くことがあるかもしれません。メンタリングの関係性の中で、メンティーの成長を促進したり、抱える課題の解決を支援したりするためには、時としてパフォーマンスに関する懸念、キャリア上の迷い、人間関係の悩み、あるいは期待値のずれによる不満など、メンティーにとって、あるいはメンター自身にとっても「難しい」と感じられる会話に踏み込む必要が生じます。
このような難しい会話への適切な対処法をメンターが身につけることは、メンタリングセッションの質を高め、プログラム全体の効果を最大化する上で不可欠です。ここでは、難しい会話に臨む上での心構えと、具体的なコミュニケーションの技術について解説します。
「難しい会話」とはどのような状況か
メンタリングにおける「難しい会話」とは、一般的に以下のような状況を指します。
- パフォーマンスや能力に関するデリケートなフィードバック: メンティーの改善点や期待水準に達していない領域について伝える場合。
- キャリアや将来に関する不安・迷い: メンティーが自身のキャリアパスに強い不安を感じていたり、方向性に迷っていたりする場合。
- 組織内の人間関係の悩み: 特定の同僚や上司との関係性に問題を抱えている場合。
- メンタリング関係における期待値のずれ: メンティーまたはメンターが、セッションや関係性に対して抱く期待が異なり、それが不満や停滞に繋がっている場合。
- メンティーのモチベーション低下や心理的な課題: メンティーが明らかに元気がない、取り組む姿勢が見られない、といった状況。
- コンフリクトや意見の対立: メンターとメンティーの間で意見が食い違う、あるいはメンティーが特定の状況に対して強い不満や怒りを感じている場合。
これらの状況は、メンティーの感情的な反応を引き起こしやすく、メンターもどのように対応すべきか戸惑うことがあります。しかし、これらの難しいテーマに適切に取り組むことで、メンティーは自身の課題を深く認識し、乗り越えるための具体的なステップを見出すことが可能になります。
難しい会話に臨む上での心構え
難しい会話に効果的に取り組むためには、まずメンター自身の心構えが重要です。
- 目的意識の明確化: 会話の目的は、メンティーを非難することではなく、彼らの成長や課題解決を支援することにあると常に意識します。建設的な対話を通じて、メンティーが前向きな行動を取れるように促す視点を持ちます。
- 非難しない姿勢: メンティーの行動や状況を、人格や能力そのものを否定する形で捉えません。特定の行動や事実、その結果に焦点を当てて話を進めます。
- 受容と共感: メンティーがどのような感情を抱いていようと、まずはその感情や状況を受け止める姿勢を見せます。共感の姿勢を示すことで、メンティーは安心して話すことができます。
- 準備: 可能であれば、事前に話したいポイントや伝えたい事実を整理しておきます。特にフィードバックを伝える場合は、具体的な事例を準備することが望ましいです。
- 心理的安全性の確保: 会話の間、メンティーが安心して本音を話せるような場であることを再確認します。秘密保持についても必要に応じて言及します。
具体的なコミュニケーション技術
心構えを整えた上で、具体的なコミュニケーション技術を駆使します。
- 丁寧な「切り出し方」: 難しいテーマに触れる際は、唐突ではなく、配慮のある言葉を選んで切り出します。
- 例: 「〇〇さんとの今後の成長について少しお話したい点がありまして」「最近少し元気がないように見受けられますが、何か話したいことはありますか」
- 傾聴と共感の深化: メンティーが話す内容に真摯に耳を傾け、言葉の裏にある感情や意図を理解しようと努めます。相槌やうなずきだけでなく、「〜ということなのですね」「それは大変でしたね」のように、理解したことや共感した気持ちを言葉にして伝えます。
- 事実に基づいたフィードバック: パフォーマンスなどに関するフィードバックが必要な場合は、評価や感情を交えず、観察した具体的な事実や行動に焦点を当てて伝えます。そして、その行動がどのような結果に繋がっているか、期待される行動との間にどのような違いがあるかを説明します。
- 例: 「先週のプレゼンテーションで、データ分析の根拠について具体的な説明が不足していたように見受けられました。そのため、聴衆が内容を十分に理解できていなかった可能性があります。」
- 「I(アイ)メッセージ」の使用: メンター自身の感情や考えを伝える際は、「あなたは〜だ」という主語ではなく、「私は〜と感じた」「私は〜だと思う」といった「Iメッセージ」を用います。これにより、非難ではなく、あくまでメンター個人の受け止めであることを伝えることができます。
- 例: 「あなたが締め切りを守れなかった時、私は少し心配になりました。」
- オープンクエスチョンの活用: メンティー自身の考えや感情、状況に対する認識を引き出すために、「どのように感じていますか」「何が原因だと考えられますか」「これからどうしていきたいですか」といった、はい/いいえで答えられないオープンな質問を投げかけます。
- 沈黙を恐れない: メンティーが考えを整理したり、感情と向き合ったりするためには、沈黙の時間が必要です。メンターが焦ってすぐに話し始めるのではなく、意図的に沈黙を与えることで、メンティーの内省を促すことができます。
- 課題の共同定義と解決策の模索: 難しい状況をメンティーとともに客観的に捉え、何が根本的な課題なのかを一緒に考えます。そして、メンターが一方的に解決策を提示するのではなく、メンティー自身が解決策を見つけられるようにサポートします。「もし〜だとしたら、他にどんな選択肢がありそうですか?」のように問いかけ、アイデアを引き出します。
- 合意形成とネクストアクションの確認: 会話の終盤で、話し合った内容、特に課題認識や今後の具体的な行動について、メンティーとメンターの間で合意を形成します。「次に具体的に何に取り組みますか?」「そのために私はどのようなサポートができますか?」のように確認し、次回のセッションで進捗を確認することを伝えます。
人材開発担当者への示唆
これらの難しい会話への対処法は、メンターにとって重要なスキルです。メンターシッププログラムの運営においては、以下の点を考慮することで、メンターがこれらのスキルを習得し、実践できるよう支援できます。
- メンター研修への組み込み: 難しいフィードバックの伝え方、感情への対応、コンフリクトマネジメントの基礎など、具体的なロールプレイングやケーススタディを取り入れた研修を実施します。
- メンター同士の共有機会: メンター同士が経験した難しい状況や、どのように乗り越えたかを共有する場を設けます。ピアラーニングは有効な学びの機会となります。
- メンターへの個別サポート: 必要に応じて、人事担当者や外部コーチなどがメンターからの相談を受け付け、具体的な対応策についてアドバイスできる体制を整えます。
- ガイドラインやリソースの提供: 難しい状況に直面した際に参照できるような、基本的なコミュニケーションのガイドラインやチェックリストを提供することも有効です。
まとめ
メンタリングにおける難しい会話は、避けて通れないと同時に、メンティーの成長を大きく促進する機会でもあります。メンターが適切な心構えとコミュニケーション技術を身につけることで、これらの状況を乗り越え、より深く信頼に基づいたメンタリング関係を築くことが可能になります。人材開発担当者の皆様には、メンターがこうしたスキルを磨き、自信を持ってメンティーと向き合えるよう、継続的な研修とサポートを提供していただくことを推奨いたします。