世代間ギャップを強みに変えるメンタリング コミュニケーションの勘所
メンタリングにおける世代間ギャップとコミュニケーション課題
現代の企業組織では、複数の世代が共に働き、多様な価値観が共存しています。このような環境下でメンターシッププログラムを運用する際、メンターとメンティーの間に存在する世代間ギャップが、効果的なコミュニケーションの障壁となることがあります。人材開発担当者の皆様は、この世代間ギャップに起因するコミュニケーション課題をいかに解消し、メンタリングの効果を最大化するかという課題に直面されていることと存じます。
世代間ギャップは、単に年齢の違いだけを指すのではなく、育ってきた社会背景、価値観、働き方に対する考え方、コミュニケーションスタイル、情報収集やデジタルツールへの慣れなど、多岐にわたる違いとして現れます。これらの違いが相互理解を妨げ、期待値のずれや不信感につながる可能性も否定できません。
しかし、世代間の多様性は、組織に新たな視点やイノベーションをもたらす可能性も秘めています。メンタリングにおいて世代間ギャップをネガティブな側面として捉えるだけでなく、むしろこれを活かし、組織全体の強みへと変えていく視点が重要となります。本稿では、メンタリングにおける世代間ギャップに起因するコミュニケーション課題を克服し、多様な世代の知見を融合させるための具体的なコミュニケーションの勘所について解説いたします。
世代間ギャップがコミュニケーションに与える具体的な影響
世代間ギャップは、メンタリングにおける以下のような側面に影響を及ぼす可能性があります。
- 価値観と優先順位: 仕事に対する価値観(例: 終身雇用 vs. キャリア自律)、ワークライフバランスへの考え方、評価されるポイントなどが世代によって異なる場合があります。これが、メンティーのキャリア目標設定や、メンターからのアドバイスへの受け止め方に影響します。
- コミュニケーションスタイル: 対面での会話、電話、メール、チャットツール、SNSなど、慣れ親しんだコミュニケーション手段や、その頻度、形式(丁寧かフランクか)に違いがあります。例えば、絵文字やスタンプの利用、ビジネスチャットでの簡潔な表現に対する捉え方などが挙げられます。
- フィードバックへの感覚: フィードバックの頻度、形式(定期的か随時か)、直接的な表現への抵抗感などが世代によって異なる場合があります。メンティーが期待するフィードバックの質や量が、メンターの習慣と合わないことで、メンティーの成長実感が得られにくいといった状況も発生し得ます。
- テクノロジーリテラシー: デジタルツールの利用スキルや情報リテラシーに差がある場合、オンラインメンタリングや情報共有の方法で戸惑いが生じることがあります。
- 学び方や成長への期待: 自己学習の方法、研修への参加意識、成長スピードに対する期待値なども世代によって異なることがあります。
これらの違いが、メンターとメンティーの間で無意識のうちに「なぜ伝わらないのだろう」「どうして理解してくれないのだろう」といった相互不信やストレスにつながる可能性があるため、事前の理解と適切な対応が不可欠です。
世代間ギャップを乗り越えるコミュニケーションの勘所
世代間ギャップをコミュニケーションの壁ではなく、相互成長の機会とするためには、以下の勘所を押さえることが重要です。
1. 相互理解のための「違いの認識」と「オープンな対話」
まず、世代による価値観やコミュニケーションスタイルの「違いがあること」自体をメンター・メンティー双方が認識することから始めます。違いは優劣ではなく、多様性であるという共通理解を持つことが出発点です。
- 自己開示と相互理解: 初回セッションや継続的な対話の中で、お互いのキャリア観、仕事で大切にしていること、得意なコミュニケーション方法、不安や懸念などを率直に話し合う機会を設けます。「私は〇〇世代なので、△△という傾向があるかもしれませんが、あなたはどうですか」といった形で、世代を一つの参考軸としながら、個別の違いに焦点を当てた対話が有効です。
- 「なぜ」を問いかけ、背景を理解する: ある言動や価値観について疑問を感じた場合、すぐに否定するのではなく、「なぜそう考えるのですか」「そう思うようになった背景はありますか」といった問いかけを通じて、その人の経験や考え方の根幹を理解しようと努めます。
2. 異なるコミュニケーションスタイルの「受容と調整」
お互いの慣れ親しんだコミュニケーションスタイルが異なることを前提に、柔軟に対応します。
- 得意なツールや頻度の確認: 連絡手段やセッション頻度について、お互いの希望や都合を確認し、歩み寄りながら最適な方法を決定します。例えば、チャットでの報告は歓迎するか、重要な連絡はメールが良いかなど、具体的なルールを設けることも有効です。
- 言葉の選び方への配慮: 世代や経験によって、同じ言葉でも受け止め方が異なる場合があります。特に専門用語や略語、あるいは特定の世代に固有の言い回しには注意が必要です。意図が正確に伝わるよう、より一般的で平易な言葉を選ぶ、補足説明を加えるといった工夫を心がけます。
- 非言語コミュニケーションの意識: リモート環境では特に、表情や声のトーン、相槌といった非言語情報が伝わりにくくなります。意識的に相槌を打つ、カメラをオンにする、リアクション機能を使うなど、オンラインならではの非言語コミュニケーションを補完する工夫が有効です。
3. 期待値の「明確化とすり合わせ」
メンタリング関係における期待値のずれは、世代間ギャップに起因することが少なくありません。
- メンタリングの目的・ゴールの共通認識: メンタリング開始時に、プログラム全体の目的だけでなく、このメンタリング関係を通じて何を目指すのか、具体的なゴールやテーマを明確に設定し、共有します。
- 役割と責任の確認: メンターは何を提供できるのか、メンティーは何に取り組むべきなのか、お互いの役割と責任を明確にします。これにより、「メンターがすべてを解決してくれる」といった過度な期待を防ぎ、メンティーの主体性を引き出します。
- フィードバックの質・量・頻度に関する合意: どのような種類のフィードバックをどのくらいの頻度で求めるか、また、どのように伝えてほしいか(例: ポジティブな面から伝える、具体的な事例を添えるなど)について、メンティーから希望を聞き、メンターができることとすり合わせを行います。
4. 世代間ギャップを「強みとして活かす」視点
違いを単なる課題で終わらせず、ポジティブな側面に焦点を当てます。
- 相互学習の機会と捉える: メンターはメンティーから最新のテクノロジーやトレンド、新しい価値観を学ぶことができます。メンティーはメンターから豊富な経験やビジネスの原理原則、キャリア形成の知恵を学ぶことができます。お互いが「教える側」「教わる側」と固定せず、相互に学び合う姿勢を持つことが、関係性を活性化させます。
- 多様な視点による課題解決: 特定の課題に対して、異なる世代の視点から意見を出し合うことで、より多角的で創造的な解決策が生まれる可能性があります。メンタリングセッションの中で、意図的に異なる視点からの意見交換を促す問いかけを取り入れることも有効です。
人材開発担当者としてできること
世代間ギャップに起因するコミュニケーション課題に対し、人材開発担当者は以下の点でサポートを提供できます。
- メンター・メンティー研修での啓発: 世代間ダイバーシティの重要性、世代による価値観やコミュニケーションスタイルの違い、相互理解のためのコミュニケーション手法などを研修コンテンツに盛り込み、事前の意識啓発を行います。
- 対話の機会の提供: メンター・メンティー双方に、関係構築初期段階での「お互いのことを知る」ための対話の重要性を伝え、必要であれば対話のガイドラインや質問例を提供します。
- サポート体制の構築: メンター・メンティーから世代間ギャップに関する悩みや相談があった場合に、いつでも運営担当者に相談できる体制を整えます。必要に応じて、個別のフォローアップや、関係性の再構築に向けた支援を行います。
- マッチングへの配慮: マッチングの際、単に経験やスキルの適合性だけでなく、価値観やコミュニケーションスタイルの相性も考慮に入れることが望ましいですが、完璧なマッチングは困難です。むしろ、マッチング後のコミュニケーションでギャップを乗り越える力そのものを育む視点も重要です。
結論
メンタリングにおける世代間ギャップは、適切に対応すれば相互理解を深め、新たな価値創造につながる重要な要素となり得ます。違いを認識し、オープンな対話を通じて相互理解を深め、異なるコミュニケーションスタイルを受容・調整し、期待値を明確にすり合わせることで、世代間ギャップはコミュニケーションの障壁から、多様性を活かすための「強み」へと転換されます。
人材開発担当者の皆様には、本稿で述べたコミュニケーションの勘所を参考に、メンターシッププログラムにおいて世代間のシナジーを最大限に引き出すための施策を検討いただければ幸いです。相互理解と敬意に基づいたコミュニケーションは、メンター・メンティー双方の成長を促進し、ひいては組織全体の活性化に貢献することでしょう。