メンタリング初回セッション成功 コミュニケーション計画と実践
はじめに
企業が実施するメンターシッププログラムにおいて、最初のメンタリングセッションは非常に重要な意味を持ちます。この初回セッションの成功が、その後のメンターとメンティーの関係構築、プログラムへのエンゲージメント、ひいてはプログラム全体の効果に大きく影響します。しかし、どのように初回セッションを計画し、どのようなコミュニケーションを心がければ良いか、具体的な指針がないと感じている担当者の方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、メンターシッププログラムの初回セッションを成功に導くための計画立案のポイントと、セッション中に実践すべき効果的なコミュニケーション手法について、具体的な視点から解説いたします。
初回セッションの重要性と目的設定
初回セッションの最も重要な目的は、メンターとメンティーがお互いを理解し、信頼関係の基盤を築くことです。同時に、今後のメンタリング活動に対するお互いの期待値をすり合わせ、共通認識を持つことも不可欠です。
初回セッションで達成すべき主な目的として、以下の点が挙げられます。
- 関係構築: 心理的安全性を確保し、率直に話し合える関係性の土台を作る。
- 期待値の共有とすり合わせ: メンター、メンティーそれぞれがメンタリングに何を期待しているかを伝え合い、現実的な目標や進め方について共通認識を持つ。
- グランドルールの設定: セッションの頻度、時間、連絡方法、守秘義務といった基本的なルールを確認し、合意する。
- 今後の見通し共有: プログラム期間、大まかなスケジュール、目標設定に向けた方向性などを共有する。
- メンティーに関する情報収集: メンティーのバックグラウンド、キャリアに関する考え、現状の課題、メンタリングを通じて解決したいことなどを把握する。
これらの目的を明確に設定し、セッションに臨むことが、その後の活動を円滑に進める上で重要となります。
初回セッションに向けた事前準備
初回セッションの成功は、事前の準備にかかっていると言っても過言ではありません。メンター、メンティー、そしてプログラム運営者のそれぞれが適切な準備を行う必要があります。
メンター側の準備
- メンティーの事前情報の確認: 運営者から提供されたメンティーの簡単なプロフィールや、メンタリングに期待することなどの情報を事前に確認します。
- 自己紹介の準備: ご自身の経験や専門性、メンターとして貢献したいことなどを簡潔に話せるように準備します。
- 初回セッションのアジェンダ案作成: セッションの目的を達成するために、どのような流れで進めるかを具体的に計画します。例えば、
- アイスブレイク(5分)
- 本日の目的とアジェンダの共有(5分)
- 自己紹介(メンター→メンティー 各10分)
- メンタリングへの期待値共有とすり合わせ(15分)
- グランドルールの確認と合意(10分)
- 今後の進め方に関する簡単な説明(5分)
- 質疑応答・フリーディスカッション(10分)
- 本日のまとめと次回までのアクション確認(5分)
- 次回の予定設定(5分) といった時間配分を含めたアジェンダを考えます。これはあくまで案であり、セッション冒頭でメンティーと共有し、調整する意識が大切です。
- メンティーへの質問リスト作成: メンティーから情報を引き出し、関係性を深めるための質問をいくつか準備しておきます。例えば、「これまでのキャリアで特に印象に残っていることはありますか?」「メンタリングを通じて、具体的にどのようなことを期待していますか?」「何か個人的に相談したいテーマはありますか?」などです。
メンティー側の準備
- メンターの事前情報の確認: メンターの経歴などを確認し、共通点や興味のある点を探しておくと、会話の糸口になります。
- 自己紹介とメンタリングへの期待の整理: ご自身のバックグラウンド、キャリアの現状、抱えている課題、メンタリングを通じてどのように成長したいか、何を学びたいかなどを整理しておきます。
- メンターに聞きたいことのリスト作成: メンターの経験や知識について聞きたいこと、プログラム運営に関して確認したいことなどをまとめておきます。
プログラム運営者側のサポート
- 事前の情報共有: メンターとメンティーに、お互いの簡単なプロフィールやメンタリングに対する意向を事前に共有します。
- 初回セッションの目的と進め方のガイダンス: メンター・メンティー双方に対し、初回セッションの重要性、目的、効果的な進め方について、研修や資料提供を通じてガイダンスを行います。
- アジェンダ例の提供: メンターがアジェンダを作成しやすいように、汎用的なアジェンダ例や質問例を提供すると有効です。
初回セッション中のコミュニケーション実践
準備した計画に基づき、セッションを実行します。計画通りに進めることも大切ですが、最も重要なのは、メンティーが安心して話し、心を開けるようなコミュニケーションを心がけることです。
セッション開始時
- アイスブレイク: 最初は軽めの話題で緊張を和らげます。「今日は少し肌寒いですね」「アクセスは大丈夫でしたか」など、天気や場所に関する簡単な会話から入るのも良いでしょう。共通の趣味や興味に関する話題が見つけられれば、さらに距離が縮まります。
- 目的とアジェンダの共有: 「本日はお互いをよく知り、今後のメンタリングについて一緒に考える最初の機会にしたいと考えています。具体的には、お互いの自己紹介の後、メンタリングに期待することや、どのようなルールで進めるかを確認できればと思っています。このアジェンダで大丈夫でしょうか」と、セッションの目的と流れを明確に伝え、メンティーの同意を得ます。
- 心理的安全性の確保: 「この時間は、あなたが日頃感じていることや考えていることを、どんなことでも安心して話せる場にしたいと思っています。ここで話された内容は、原則として私とあなたの間で共有されます。何か懸念があれば、いつでも遠慮なくお伝えください」といった言葉を添え、安心感を提供します。
セッション中の重要なコミュニケーションポイント
- 期待値のすり合わせ: メンターは「私はこれまでの経験から、例えばリーダーシップに関する視点を提供できると思います」といった自身の貢献可能性を伝えつつ、「あなたは今回のメンタリングで、具体的にどのような課題を解決したいと考えていますか」「どのようなサポートがあれば、一番役に立つと感じますか」とメンティーの期待を具体的に聞き出します。期待にギャップがある場合は、「ご期待に沿える部分、そうでない部分があるかもしれませんが、一緒に最適な進め方を考えましょう」と率直に話し合います。
- グランドルールの設定: 「今後のセッションは月に1回、この曜日のこの時間で固定するのはいかがでしょうか」「もし遅刻や欠席をする場合は、事前に〇日前までに連絡し合いましょう」といった具体的なルールを提案し、メンティーの希望も聞きながら合意形成を図ります。「セッションで話した内容の秘密は守りますが、法的な問題やハラスメントに関わる内容については、組織の定めるルールに従い、担当部署への報告が必要になる場合があることをご理解ください」など、重要な例外規定も忘れずに伝えます。
- メンティーからの情報引き出し(傾聴と質問): メンティーの話を注意深く聞くことが最も重要です。相槌やうなずきだけでなく、「それは具体的にどのような状況だったのですか」「その時、あなたはどのように感じましたか」「なぜそう考えたのですか」といったオープンクエスチョン(はい/いいえで答えられない質問)を用いて、メンティーの思考や感情を深掘りします。「つまり、〇〇ということですね」と繰り返して確認したり、「〇〇ということの背景には、△△という思いがあるのですね」と言い換えて共感や理解を示すことも有効です。メンティーが話しやすくなるように、焦らせず、沈黙も活用しながら、じっくりと耳を傾けます。
- メンター自身の自己開示: メンター自身の過去の失敗談や、どのように困難を乗り越えたかといった経験談を適度に話すことは、メンティーが親近感を持ち、安心して悩みを打ち明けやすくなることにつながります。ただし、メンターの話ばかりにならないよう注意が必要です。
セッション終了時
- 本日の振り返り: 「今日はメンタリングへの期待や今後の進め方についてお話しできて、私も大変勉強になりました。特に〇〇さんの△△という考え方が印象的でした」といったように、セッションで話し合った重要な点やポジティブな側面に触れ、共に振り返ります。
- 次回までのアクション確認: 初回セッションで次回までにメンティーが行うこと(例:メンタリングで達成したい目標について具体的に考えておく)や、メンターが行うこと(例:目標設定に役立つ情報を調べておく)を確認し合います。
- 次回の予定設定: その場で次回のセッションの日時と場所(またはオンライン接続情報)を設定し、確定させます。
- 感謝とポジティブな締めくくり: 「今日はありがとうございました。次回のセッションを楽しみにしています」といった感謝の言葉と、今後へのポジティブな期待を伝えてセッションを終了します。
初回セッション後のフォローアップ
セッション終了後、メンターは簡単な議事録を作成し、メンティーと共有することを検討します。これにより、話した内容の確認と、決定事項やアクションアイテムの明確化ができます。また、「本日はお疲れ様でした。また来月お話しできるのを楽しみにしています」といった短いメッセージを送ることも、良好な関係維持に役立ちます。
まとめ
メンターシッププログラムの初回セッションは、単なる顔合わせではなく、その後の活動の成否を左右する重要なステップです。明確な目的設定、入念な事前準備、そして何よりもメンティーに寄り添う傾聴と、適切な問いかけによる効果的なコミュニケーションの実践が、初回セッションを成功に導く鍵となります。
人材開発担当者の皆様におかれましても、本記事でご紹介した計画と実践のポイントを、メンター・メンティーへのガイダンスや研修コンテンツに活用いただくことで、貴社のメンターシッププログラムの効果を最大化する一助となれば幸いです。初回セッションでの良いスタートが、メンティーの成長、メンター自身の学び、そして組織全体の活性化に繋がっていくものと確信しております。