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メンタリングにおけるコンフリクト予防と解消 コミュニケーションの勘所

Tags: メンタリング, コンフリクト解消, コミュニケーション, 人材開発, トラブル対応

メンターシッププログラムは、組織における人材育成やエンゲージメント向上に重要な役割を果たしますが、メンターとメンティーの関係性においては、時にコンフリクトが発生する可能性があります。コンフリクトは単なる不和ではなく、放置すると関係性の悪化やプログラムの効果低下を招きかねません。しかし、適切なコミュニケーションを通じてコンフリクトを予防し、あるいは建設的に解消することができれば、それは関係性の深化や個人の成長、さらには組織の学習機会へと繋がり得ます。

この記事では、メンターシップにおけるコンフリクトの原因を理解し、その予防策、そして発生時の具体的なコミュニケーション手法について掘り下げ、人材開発担当者の皆様が効果的なメンターシッププログラムを運営するための示唆を提供いたします。

メンタリングにおけるコンフリクトの種類と原因

メンタリング関係で発生するコンフリクトは多岐にわたりますが、主なものとして以下が挙げられます。

これらのコンフリクトは、単一の原因だけでなく、複数の要因が複合的に絡み合って発生することが少なくありません。

コンフリクトを予防するためのコミュニケーション

コンフリクトの発生を完全にゼロにすることは難しいですが、効果的なコミュニケーションによってそのリスクを大幅に低減することは可能です。予防策の主なポイントは以下の通りです。

人材開発担当者は、これらの予防策についてメンター・メンティー向けの研修やガイダンスの中でしっかりと伝える必要があります。

コンフリクト発生時の対応と解消に向けたコミュニケーション

コンフリクトが発生してしまった場合、早期かつ建設的に対応することが重要です。以下に、解消に向けたコミュニケーションのステップとポイントを示します。

  1. 早期発見と状況把握: メンターまたはメンティーからの相談、あるいは運営側が察知したサイン(セッション頻度の減少、連絡の滞りなど)から、コンフリクトの兆候を早期に捉えることが重要です。状況把握のためには、まずは当事者双方から丁寧に話を聞く必要があります。
  2. 感情への配慮と傾聴: コンフリクト状況では、当事者は感情的になっている場合があります。まずは相手の感情に寄り添い、共感的な姿勢で傾聴します。「〜と感じていらっしゃるのですね」「〜な状況だったのですね」のように、相手の言葉を繰り返したり、感情を言葉にしたりすることで、理解しようとしている姿勢を示します。批判や評価はせず、まずは安全に話せる場を提供します。
  3. 問題の明確化: 感情的な側面に対応しつつ、コンフリクトの具体的な原因や論点を明確にします。何が問題なのか、それぞれは何を求めているのかを、具体的な事実に基づいて整理します。この際、「あなたはいつも〜だ」といった非難めいた言葉ではなく、「〜という行動があった際、私は〜と感じた」のように、"I (アイ)メッセージ" を使用することが有効です。
    • "I (アイ)メッセージ" の例:
      • 「あなたは約束の時間に遅刻した」→ 事実の指摘(非難に聞こえる可能性)
      • 「約束の時間から10分過ぎても連絡がなかった時、私は心配になりました」→ 観察した事実 + その時に感じた自分の気持ち(非難ではなく、自分の状態を伝える)
  4. 共通の目標またはニーズの探索: コンフリクトは、それぞれの目標やニーズが満たされていない状況から生じます。対立する意見の背後にある、それぞれの本当のニーズや、メンタリング関係で本来達成したかった共通の目標(例: メンティーの成長、相互学習)に立ち返るよう促します。
  5. 解決策の共同探索と合意: 当事者双方で、どのようにすればそれぞれのニーズが満たされ、共通の目標に近づけるかを一緒に考えます。一方的な解決策の押し付けではなく、複数の選択肢を出し合い、それぞれにとって最も受け入れられる合意点を探します。合意した内容は具体的に確認し、必要であれば記録します。
  6. フォローアップ: 一度合意しても、状況が改善しない場合や新たな問題が生じる場合もあります。合意した内容が実行されているか、関係性が改善しているかを定期的に確認し、必要に応じて再度話し合いの機会を設けます。

人材開発担当者は、これらのコミュニケーションスキルについてメンター研修で教えるだけでなく、コンフリクトが発生した際の相談窓口となり、必要に応じて仲介役として関与する準備をしておく必要があります。特に、メンター自身がコンフリクト対応に自信がない場合や、当事者間での解決が難しい場合には、運営担当者の介入が不可欠となります。

運営担当者の役割

メンタリングプログラムの運営担当者は、コンフリクト予防と解消において重要な役割を担います。

結論

メンタリングにおけるコンフリクトは、適切に対応すれば、関係性の見直しや深化、そして当事者双方のコミュニケーションスキル向上に繋がる学びの機会となり得ます。重要なのは、コンフリクトをネガティブなものとして避けるのではなく、その発生を自然なプロセスの一部として捉え、予防と建設的な解消に向けたコミュニケーション能力を組織全体で高めていくことです。

人材開発担当者の皆様には、プログラム設計の段階からコンフリクト予防の要素を組み込み、メンターやメンティーが必要なコミュニケーションスキルを習得できるよう支援し、そして万が一コンフリクトが発生した際には、迅速かつ適切に対応できる体制を整えていただくことを推奨いたします。これにより、メンターシッププログラムはより効果的に機能し、組織全体の成長に貢献するでしょう。