メンティーの自律成長を促すメンタリング コミュニケーションの勘所
メンターシップにおけるメンティーの自律成長支援の重要性
企業における人材育成において、メンターシッププログラムは重要な施策の一つです。特に、メンティーが与えられた指示をこなすだけでなく、自ら課題を発見し、目標を設定し、解決に向けて主体的に行動できる「自律的な成長」を遂げることは、変化の激しい現代において必須の能力と言えます。人材開発担当者の皆様も、メンターシップを通じてメンティーの自律性をどう育むか、という点に関心をお持ちのことと存じます。
しかしながら、意図せずメンターが「教えすぎ」たり、メンティーがメンターに過度に依存してしまったりすることで、かえって自律的な思考や行動が阻害されるケースも少なくありません。本記事では、メンターシップにおいてメンティーの自律成長を効果的に促すためのコミュニケーションの勘所について、具体的な手法を交えながら解説いたします。
自律成長を促すコミュニケーションの基本的なスタンス
メンティーの自律成長を支援するためには、メンターのコミュニケーションにおける基本的なスタンスが鍵となります。それは、「教える」という一方的な関係ではなく、「共に探求する」という対等なパートナーシップを築くことです。
具体的には、以下の点を意識することが重要です。
- 信頼関係の構築: メンティーが安心して自分の考えや感情を話せる心理的安全性の高い関係性を築くことが基盤となります。
- 対等なパートナーシップ: メンターが「指導者」として上から教えるのではなく、メンティーの伴走者として、共に学び、成長していく姿勢を持つことです。
- メンティーの資源(強み、経験、考え)への尊重: メンティー自身が既に持っている能力や視点を尊重し、それを引き出すことを目指します。
- 安易な解決策の提示を避ける: メンティーが直面している課題に対し、すぐに答えや解決策を与えるのではなく、メンティー自身が考え、選択するプロセスを支援します。
自律成長を促す具体的なコミュニケーション手法
では、これらのスタンスを実践するために、具体的にどのようなコミュニケーション手法が有効なのでしょうか。
1. 内省と自己理解を促す「問いかけ」
メンティーの自律的な思考を促すには、良質な問いかけが不可欠です。単に情報を問う質問ではなく、メンティー自身が内省を深め、新たな視点や気づきを得られるような問いかけを心がけます。
- 効果的な問いかけの例:
- 「その状況について、あなたはどのように感じましたか?」
- 「なぜそのように考えたのですか? その考えに至った背景には何がありますか?」
- 「もし〇〇だとしたら、状況はどのように変わると思いますか?」
- 「今回の経験から、次に活かせるとすればどのような点でしょうか?」
- 「その目標を達成するために、今、何から取り組むのが最も効果的だと考えますか?」
- 「いくつかの選択肢がある中で、あなたが最も大切にしたい判断基準は何ですか?」
オープンクエスチョンを中心に、メンティーが「なぜ」「どのように」「何を」と深く考えるきっかけを提供します。
2. メンティーの主体性を引き出す「傾聴」と「承認」
メンティーが自らの考えを言語化し、整理するプロセスを支援するためには、徹底した傾聴が重要です。メンターは評価やアドバイスを保留し、メンティーの話に耳を傾け、理解しようと努めます。
- 効果的な傾聴・承認の例:
- 相槌やうなずきで、話を聞いていることを示す。
- メンティーの言葉を要約・言い換えして、「このように理解しましたが、合っていますか」と確認する(アクティブリスニング)。
- メンティーが自分で気づきを得たり、困難な状況に立ち向かったりした際に、そのプロセスや努力、メンティー自身の発見を承認する。「〇〇さん自身が、この点に気づかれたのですね。素晴らしい発見だと思います。」
- 感情や状況をただ聞くだけでなく、「それは〇〇と感じられたのですね」と、メンティーの感情に寄り添う姿勢を示す。
傾聴と承認は、メンティーが安心して自己開示し、自分の内面と向き合うための安全な場を提供し、自己肯定感を育むことにも繋がります。
3. 成長を促す「フィードバック」と自己評価支援
フィードバックは成長促進の重要な要素ですが、自律成長の観点からは、単に評価を伝えるのではなく、メンティー自身が状況を分析し、学びを得るための手助けとして機能させることが求められます。
- 自律成長を促すフィードバックの例:
- 一方的な評価ではなく、観察に基づいた事実や具体的な行動に焦点を当てる。「〇〇のプロジェクトで、あなたは〜という行動をとりましたね。その結果として〜という状況が生まれました。」
- 「〜という行動をとったのは、どのような意図からでしたか?」と、メンティーの考えや意図を尋ねる。
- 「この状況から、次にどのように活かせると考えますか?」と、今後の行動改善をメンティー自身に考えさせる。
- メンティーが自己評価を行った後、「その評価に至った理由は何ですか」「その評価を裏付ける具体的な事例はありますか」と問いかけ、自己評価の質を高める支援をする。
メンターからのフィードバックに加え、メンティー自身が自分自身のパフォーマンスやプロセスを振り返り、評価する機会を設けることが、自己認識力と自律的な改善能力を高めます。
4. 目標設定と振り返りにおける「メンティー主体」の促進
メンターシップにおける目標設定と進捗管理は、メンティーが主体的に行うべきプロセスです。メンターは目標を指示するのではなく、メンティーが心からコミットできる目標を自分で見つけ、設定するのを支援します。
- メンティー主体を促す目標設定・振り返りの例:
- 「今後、どのようなスキルや経験を積んでいきたいですか?」と、メンティーのキャリアビジョンや関心から目標の方向性を探る。
- 目標設定のフレームワーク(例: SMART)を紹介し、メンティー自身が目標を具体化、測定可能にするプロセスをサポートする。
- 定期的な進捗確認の場で、「目標達成に向けて、これまでの取り組みをどのように評価しますか?」「計画通りに進んでいない場合、その要因は何だと考えますか?」と問いかけ、メンティー自身に分析と軌道修正を促す。
- 振り返りの際に、「今回の経験から、最も学んだことは何ですか?」「その学びを、今後の〇〇にどのように活かしていきたいですか?」と、学びの適用をメンティー自身に考えさせる。
プログラム運営側からのサポート
メンティーの自律成長を支援するコミュニケーションを現場で実現するためには、人材開発担当者の皆様によるプログラム設計とサポートが不可欠です。
- メンター研修におけるスタンス教育: メンターに対して、「教える」から「支援する」「伴走する」へのスタンス転換、効果的な問いかけ、傾聴、フィードバックの手法について丁寧に研修を実施することが重要です。単なるスキル習得に留まらず、自律成長支援の哲学を共有します。
- メンティーへのガイダンス: メンティーに対しても、メンターシップは一方的に教えてもらう場ではなく、自らの成長のために主体的に活用する場であること、自ら考え、質問し、フィードバックを求めることの重要性などを事前にガイダンスで伝えます。
- 関係性の見直し機会: ミスマッチや関係性の課題が発生した場合に、メンティーが安心して相談できる窓口や、関係性を見直す機会をプログラムとして用意しておくことも、メンティーが健全な形で自律的に関係性を調整するために有効です。
まとめ
メンターシッププログラムにおけるメンティーの自律成長は、組織全体の持続的な成長に繋がる重要な要素です。そのためには、メンターが「教える」スタンスから脱却し、メンティーの持つ資源を信頼し、問いかけ、傾聴し、共に探求するコミュニケーションへとシフトしていくことが求められます。
人材開発担当者の皆様におかれましては、これらのコミュニケーションの勘所を、メンター研修やプログラムの運用設計に取り入れていただくことで、メンティー一人ひとりがメンターシップを成長の機会として最大限に活かし、自律的にキャリアを切り拓いていく支援を実現できるものと確信しております。本記事が、貴社のメンターシッププログラムの効果最大化の一助となれば幸いです。