グループメンタリング効果最大化 コミュニケーション設計のポイント
はじめに:グループメンタリングにおけるコミュニケーションの重要性
近年、限られたリソースの中でより多くの社員にメンターシップの機会を提供するため、あるいは多様な視点からの学びを促進するため、グループメンタリングを導入または検討されている企業が増えています。グループメンタリングは、一対一のメンタリングとは異なるダイナミクスを持ち、複数のメンティーが互いに学び合うピアラーニング効果や、メンターの効率的な知見共有といったメリットがあります。
しかしながら、その効果を最大限に引き出すためには、グループ特有のコミュニケーション課題を理解し、適切に設計・運営することが不可欠です。本稿では、人材開発担当者の皆様がグループメンタリングプログラムを成功に導くため、効果的なコミュニケーション設計における重要なポイントを解説いたします。
グループメンタリングにおけるコミュニケーションの特殊性
グループメンタリングでは、メンターと一人のメンティーという単純な構造ではなく、メンターと複数のメンティー、そしてメンティー同士という複数の関係性が同時に存在します。これにより、コミュニケーションは以下のような特殊性を持ちます。
- 多様な意見の集約と調整: 複数のメンティーが異なる経験や視点から発言するため、多様な意見が出やすい一方、それをまとめ、共通の学びへと昇華させるための調整が必要となります。
- 発言機会の均等化: 特定の参加者だけが話しすぎたり、あるいは遠慮して全く発言しない参加者が出たりするリスクがあります。全員が安心して貢献できる環境作りが重要です。
- グループ内力学: 参加者間の関係性や影響力がセッションの雰囲気に影響を与えます。競争意識が生まれたり、逆に互いを支援する関係性が構築されたりします。
- ファシリテーションの負荷: メンターは自身の経験や知識を共有するだけでなく、議論を促進し、参加者間の相互作用を活性化させるファシリテーターとしての役割がより強く求められます。
効果最大化のためのコミュニケーション設計ポイント
グループメンタリングの効果を最大化するためには、これらの特殊性を踏まえ、プログラム設計段階からコミュニケーションを意識した仕掛けを組み込むことが重要です。
1. プログラムの目的と期待値の明確化
グループメンタリングで何を達成したいのか、その目的を明確に設定し、参加者全員が共通理解を持つことが基盤となります。「特定スキル群の底上げ」「リーダーシップ開発」「異部門交流による組織課題発見」など、目的に応じてコミュニケーションの内容や形式は変化します。
また、メンター・メンティー双方に対して、グループメンタリングにおける自身の役割、他の参加者への期待、セッションの進め方など、開始前に具体的な期待値を丁寧に伝えることが不可欠です。これにより、参加者は安心してセッションに臨むことができ、不要な混乱や不満を防ぐことができます。
2. 参加者の選定と組み合わせの検討
グループ内のコミュニケーションの質は、参加者の組み合わせに大きく左右されます。完全に共通の課題を持つメンバーを集めるか、あるいは多様なバックグラウンドを持つメンバーを組み合わせるかなど、プログラムの目的に応じて慎重に検討します。
- 共通課題型: 特定の部門や職種、年次など、共通の課題や目標を持つグループは、互いの経験を共有しやすく、深い議論につながりやすい傾向があります。
- 多様性重視型: 異なる部門、職種、年次、経験レベルなどの組み合わせは、多様な視点やアイデアが生まれやすく、相互に刺激し合う効果が期待できます。
いずれの場合も、参加者それぞれの発言スタイルや経験、性格を考慮に入れ、バランスの取れた組み合わせを目指します。事前の参加者へのヒアリングやアンケートが有効です。
3. セッション構造とアジェンダ設定
効果的なグループメンタリングセッションには、適切な構造とアジェンダが不可欠です。
- 冒頭のアイスブレイク: 参加者全員がリラックスし、話しやすい雰囲気を作るために重要です。全員が平等に話す機会を設けることから始めます。
- 目的・ゴールの再確認: セッションの最初に、その回の目的や到達目標を改めて共有します。
- 個別課題と共通課題のバランス: 各参加者の個別の課題を扱いつつ、それがグループ全体にとって共通の学びとなるように誘導します。他の参加者の課題を聞くことで、自身の課題への気づきや解決のヒントを得られるように設計します。
- 全員参加を促す仕掛け: 特定の参加者だけが話す状況を避けるため、ペアワークや少人数でのブレイクアウトセッション(オンラインの場合)、順番に発言を促す「ラウンドロビン」などの手法を取り入れます。
- まとめとネクストアクション: セッションの最後に、議論の内容や学びを要約し、各参加者が次に取るべき具体的な行動(ネクストアクション)を明確にします。
4. ファシリテーションスキルの強化
グループメンタリングの成功は、メンターのファシリテーション能力に大きく依存します。運営担当者は、メンターに対してグループファシリテーションに関する研修やガイドラインを提供することを推奨します。具体的なスキルとしては以下が挙げられます。
- 傾聴と受容: 参加者全員の発言を注意深く聞き、否定せずに受け止める姿勢を示します。
- 効果的な問いかけ: 議論を深め、参加者自身の気づきを促すオープンクエスチョンを投げかけます。「〇〇について、皆さんはどのように感じていますか?」「過去に似たような状況を経験したことはありますか?」「その状況で、もし別の行動をとっていたらどうなっていたでしょうか?」といった問いかけが有効です。
- 要約と構造化: 複雑な議論を整理し、要点を明確にして参加者と共有します。「つまり、〇〇さんのお考えは△△ということですね。それに対して、□□さんは別の視点を示されました。」のように、話の流れを整理します。
- 対立の解消と心理的安全性確保: 意見の対立が生じた場合に、感情的にならずに問題の焦点を明確にし、建設的な議論へと導くスキルが必要です。全ての参加者が安心して意見を述べられる心理的な安全性は、グループメンタリングの根幹をなします。メンター自身がオープンで非批判的な態度を示すことが、この環境を作る上で極めて重要です。
- 時間管理: 設定された時間内に議論をまとめ、セッションの目的を達成できるよう、適切に時間配分を行います。
5. ピアラーニングの促進
グループメンタリングの大きな強みは、メンティー同士の相互学習です。メンターは、自身の知見を提供するだけでなく、メンティー同士がお互いから学び合えるよう、意図的に働きかけます。
「〇〇さんの経験を聞いて、△△さんはどう感じますか?」「この課題について、皆さんの中で何かアイデアをお持ちの方はいらっしゃいますか?」といった働きかけにより、メンターだけが教える場ではなく、参加者全員が貢献し、共に成長する場へと昇華させます。
6. 運営担当者によるサポート体制
グループメンタリングの効果を継続的に高めるためには、運営担当者による適切なサポートが不可欠です。
- メンターへの研修・情報提供: 前述のファシリテーションスキル研修に加え、グループ運営上の注意点、想定されるトラブルシューティングなどに関する情報を提供します。
- 定期的なメンターとの連携: セッションの進捗状況や課題について、メンターと定期的に情報交換する機会を設けます。
- メンティーへのフォローアップ: セッション後にメンティーからフィードバックを収集し、プログラム改善に活かします。また、必要に応じて個別面談などのフォローを行います。
- セッション内容の記録と共有(任意): プライバシーに配慮しつつ、グループ全体で共有すべき学びや、次回のセッションに引き継ぐべき事項などを記録・共有する仕組みがあると、学習効果が高まります。
結論:コミュニケーション設計がグループメンタリング成功の鍵
グループメンタリングは、適切に設計・運営されれば、多くの社員に質の高い学びの機会を提供できる非常に有効な人材育成手法です。その成否は、グループという特性を理解した上でのコミュニケーション設計にかかっています。
本稿でご紹介したポイント(目的・期待値の明確化、参加者の選定と組み合わせ、セッション構造とアジェンダ、ファシリテーションスキルの強化、ピアラーニングの促進、運営担当者のサポート)を参考に、参加者全員が主体的に関わり、互いに学び合い、成長を実感できるグループメンタリングプログラムの実現を目指していただければ幸いです。