異なる部門・職種間のメンタリング コミュニケーション円滑化の勘所
部門や職種を横断したメンタリングは、組織内の多様な知識や視点を共有し、個人の視野拡大や組織全体の活性化に貢献する有効な取り組みです。しかしながら、異なるバックグラウンドを持つ者同士のコミュニケーションには、特有の課題も存在します。人材開発担当者として、このようなクロスメンタリングプログラムを企画・運営される際には、これらの課題を理解し、コミュニケーションが円滑に進むよう適切なサポートや仕組みを検討することが重要です。
本記事では、異なる部門・職種間のメンタリングにおけるコミュニケーションの固有課題を明らかにし、それらを乗り越え、効果的な関係性を構築するための具体的な勘所について解説します。
異なるバックグラウンドに起因するコミュニケーション課題
部門や職種が異なると、以下のようなコミュニケーション上の障壁が生じやすくなります。
- 専門用語や業界特有の表現: お互いの業務領域で使用される専門用語や略語、暗黙知が通じず、会話が円滑に進まない場合があります。
- 業務プロセスや文化の違い: 業務の進め方、意思決定のプロセス、日常的な慣習などが異なり、相手の状況を理解しにくいことがあります。
- 優先順位や価値観の相違: 部門ごとの目標や評価基準が異なるため、何が重要か、どのような視点で物事を捉えるかといった優先順位や価値観に違いが生じることがあります。
- 役割や立場への誤解: 相手の部門における役割や責任範囲、影響力について正確な理解がないままコミュニケーションを進めてしまうことがあります。
- 心理的な壁: 「自分の分野とは違う」という意識から、遠慮が生じたり、深い話に踏み込みにくかったりする場合があります。
これらの課題は、メンター・メンティー間の信頼関係構築を遅らせ、セッションの質を低下させる要因となり得ます。
コミュニケーション円滑化のための具体的な勘所
クロスメンタリングにおけるコミュニケーションを円滑に進めるためには、以下の点に留意し、プログラム設計やメンター・メンティーへの働きかけを行うことが有効です。
1. 事前準備と共通理解の醸成
- お互いの業務理解を促す機会の提供: マッチング前に、あるいは初期セッションにおいて、お互いの部門の役割、主要な業務内容、最近の取り組みなどについて簡単に紹介し合う時間を設けることを推奨します。資料を事前に共有することも有効です。
- 共通の目的意識の確認: メンタリングプログラム全体の目的(例: 視野拡大、ネットワーキング強化、新しい視点の獲得など)に加え、このペア固有のメンタリング目標を明確に設定し、双方で合意形成を図ります。部門目標とは異なる、個人的な成長や学びの目標に焦点を当てることが重要です。
- コミュニケーションスタイルに関するすり合わせ: どのような頻度・手段(対面、オンライン会議、チャットなど)で連絡を取り合うか、情報の共有方法などについて、最初のセッションで具体的に話し合い、取り決めを行います。
2. セッション中の意識とスキル
- 「素人」としての質問を歓迎する雰囲気: 相手の専門分野について知らないことを恥じず、積極的に質問できる心理的安全性を確保します。メンターは、メンティーが理解できるよう平易な言葉で説明する努力が必要です。
- 意図的な「橋渡し」コミュニケーション: 専門用語を使った場合は、「これは〇〇という意味です」「私たちの部署では、〜という目的でこれをしています」といった補足説明を加える習慣をつけます。相手の使った専門用語を復唱し、意味を確認することも有効です。
- 相手の立場・文脈への配慮: 相手の部門の状況(繁忙期、特定のプロジェクト進行状況など)や文化を想像し、コミュニケーションの頻度や内容に配慮します。なぜ相手がそのような考え方をするのか、その背景にあるものを理解しようとする姿勢が重要です。
- 具体的な事例や比喩の活用: 抽象的な概念や部門特有の事情を説明する際に、具体的な業務事例や、相手の理解しやすい分野からの比喩を用いて説明することで、相互理解が深まります。
3. プログラム運営側からのサポート
- 異文化理解/コミュニケーション研修: 部門横断メンタリングに参加するメンター・メンティーに対し、異文化理解や多様な価値観への向き合い方、傾聴・質問などの基本的なコミュニケーションスキルに関する研修を提供することは非常に有効です。
- 専門用語リストの作成(推奨する場合): 特に技術部門と非技術部門のマッチングが多い場合など、よく使われる専門用語の簡単な解説リストを共有することも検討できます。
- 運営担当者による定期的なフォローアップ: ペアとの定期的な面談やアンケートを通じて、コミュニケーション上の課題が発生していないかを確認します。課題が特定された場合は、解決に向けたアドバイスや追加のサポートを提供します。
- 成功事例の共有: クロスメンタリングでコミュニケーションがうまくいったペアの事例を紹介し、具体的な工夫や対話のヒントを共有することで、他の参加者の参考になります。
結論
異なる部門・職種間のメンタリングは、その差異ゆえにコミュニケーションの難しさが伴いますが、同時にその差異こそが新しい視点や学びの源泉となります。ここで述べたような、事前準備による共通理解の醸成、セッション中のお互いを尊重し理解しようとする意識とスキル、そして運営側からの積極的なサポートを通じて、コミュニケーションの壁を低くし、クロスメンタリングの可能性を最大限に引き出すことが可能になります。
人材開発担当者の皆様におかれましては、これらの勘所を参考に、より効果的なクロスメンタリングプログラムの運営に繋げていただければ幸いです。